羽毛の膨らみの力を通じて品質を表す単位にはフィルパワーとダウンパワーの2つがあることが
調べていてわかったのだが、どうもこの2つを簡単に変換してくれるサイトが、ざっと検索した限り
ない。さすがに不便すぎるだろ。ということで、フィルパワーとダウンパワーの変換ツールを
作ってみた。
使い方は簡単で、例えば1000フィルパワーが何ダウンパワーなのか知りたい場合は、
フィルパワーのところに1000と入れて「フィルパワーをダウンパワーに変換」のボタンを押せば、
546.2333ダウンパワーと表示されるし、440ダウンパワーが何フィルパワーなのかを知りたい
場合は、ダウンパワーのところに440と入れて「ダウンパワーをフィルパワーに変換」のボタンを
押せば、805.5166171670603フィルパワーと表示がされるといった具合だ。
さて、ここからはダウンパワーとフィルパワーの説明と、上記ツールの元となっている計算式の
解説をしようと思う。ダウンパワーとフィルパワーの定義に関しては、公的なサイトを見るのが
一番良いだろう。検索だと下記のサイトが最上位に来るのではなかろうか。
一般財団法人日本繊維製品品質技術センター - 羽毛製品【ダウンパワー】
一般財団法人日本繊維製品品質技術センター - 羽毛製品【フィルパワー】
上記によると、ダウンパワーとは布団の中の羽毛の膨らみを1g当たりの体積(cm3/g)で示した
もので、条件としては約1.4kg/m2(約14パスカル)の圧力を掛けた状態で計測をすると。
で、フィルパワーとは現在使用されている定義の国際羽毛協会によるIDFB法の定義では、
ダウンジャケットなどの羽毛の膨らみを30g当たりの体積(inch3/30g)で示したもので、
条件としては、直径288mmのシリンダーに94.3gの重りを載せた状態で計測をすると。
全くひどいもので、単位も測定条件もてんでバラバラじゃないか。わかりにくすぎる。
とりあえず、ダウンジャケットではフィルパワーを用い、羽毛布団ではダウンパワーを使って
いるということのようだ。おそらくはこれ、歴史的な経緯なんだろうね。
元々はフィルパワーという単位を使っていたのだけど、単位の国際化・統一化の流れがあって、
g(グラム)だのm(メートル)だのを使ったSI単位系を使うようにしましょう、という申し合わせが
あって、ダウンパワーという単位が生まれたということだと思われる。
単位に関しては変換すればよいだけなので、ゴリゴリ計算していけば算出はできるのだけど、
重りを載せるという測定条件の部分が2つの単位でどれだけ違うのかによって、変換の
精度に差が出そうなので、まずはそれぞれの単位の圧力の単位を揃えてみるか。
まず、SI単位系のダウンパワーの方の圧力条件は約1.4kg/m2とのこと。この単位に
フィルパワーの圧力条件である直径288mmのシリンダーに94.3gの重りを載せた状態を
合わせてみようと思う。
直径288mmの円の面積をm2で表すと、半径0.144m×半径0.144m×円周率3.14=0.06511m2。
0.06511m2当たり0.0943kgの圧力がかかっている状態なので、1m2当たりに直すと、
0.0943kg/0.06511m2=1.4483kg/m2。ん?計算したらフィルパワーとダウンパワーの
圧力条件は大体同じになったね。おそらくほぼ同じ条件になるようにダウンパワーの
圧力条件を設定したんじゃないかな。ここが大体同じなら、2つの間の単位換算をするだけで
精度の高い変換式が作れそうだな。
さて、じゃあ羽毛の膨らみの単位に関しても、SI単位系のダウンパワーの方にフィルパワーを
合わせていく形で計算をしてみるか。ダウンパワーは1g当たりの体積(cm3/g)なので、
フィルパワーに関しても1g当たりの立法センチに直してみれば良い。
フィルパワーは30g当たりの立方インチで表わされるので、立方インチを立方センチに
換算すれば、あとは単純な計算で換算できるようになる。1inch=2.54cmなので、
1inch3= 2.54cm×2.54cm×2.54cm=16.387cm3。
ということで、1フィルパワー = 1inch3/30g = 16.387cm3/30g = 0.5462333cm3/gなので、
1フィルパワーは約0.5462333ダウンパワーという結論になった。これを冒頭のツールの
計算式として使用することにする。
フィルパワーとダウンパワーの計算式(概算式ではあるが)を確立できたところで、
それぞれの単位をいろいろと換算してみようと思う。
まずダウンパワーに関して、上記で紹介した日本繊維製品品質技術センターのページに
よると、日羽協ゴールドラベルという4つの品質区分があるようだ。
ニューが300ダウンパワー以上、すなわち約550フィルパワー以上、
エクセルが350ダウンパワー以上、すなわち約640フィルパワー以上、
ロイヤルが400ダウンパワー以上、すなわち約730フィルパワー以上、
プレミアムが440ダウンパワー以上、すなわち約800フィルパワー以上ということになる。
今度はフィルパワーでよく見かける数値をダウンパワーに換算してみよう。
ユニクロのウルトラライトダウンの説明では、550フィルパワー以上が高品質とされ、
ウルトラライトダウンでは640フィルパワー以上のダウンを使用しているとのこと。
これをダウンパワーに換算すると、
高品質ダウンの550フィルパワーが約300ダウンパワー、
ユニクロのウルトラライトダウンの640フィルパワーが約350ダウンパワーとなる。
ダウンに関して、もう少し見てみよう。ユニクロのダウンよりも高品質なものの中で、
比較的コストパフォーマンスが高いと評判なのは、登山用品メーカーのモンベルのもの。
ユニクロのウルトラライトダウンに相当する軽量ダウンジャケットは3種類展開していて、
U.L.ダウンジャケットが800フィルパワー、EXライトダウンジャケットが900フィルパワー、
最高品質のプラズマ1000ダウンジャケットが1000フィルパワーとなっている。
これをそれぞれダウンパワーに換算すると、
U.L.ダウンジャケットの800フィルパワーが約440ダウンパワー、
EXライトダウンジャケットの900フィルパワーが約490ダウンパワー、
プラズマ1000ダウンジャケットの1000フィルパワーが約550ダウンパワーとなる。
ちなみに1000フィルパワーを超えるダウンジャケットは今のところどのメーカーにもないはず。
モンベル、マーモット、パタゴニアの3社の登山用品メーカーが出している1000フィルパワーが
現状での最高品質のものかと。ここまでくるとさすがに高額すぎて、主にインナー用途の
ライトダウンであるプラズマ1000ダウンジャケットですら25000円を超えるという金額っぷりだ。
実際問題、一番外に着るシェルジャケットとしてのダウンに関しては、フィルパワー600以上
あれば、南極でも使えるようである。例えば、アメリカ南極探検隊が使っているBig Redの
愛称で知られるダウンジャケットはカナダグースのものであるが、そのクラスの最高級の
パーカーでもフィルパワーは625~675程度、ダウンパワーなら340~370といったところだ。
ちなみに日本の南極観測隊は第1次南極地域観測隊の編成以来、日本のダウンウェア
専業メーカーであるザンター社のダウンを使用しているが、ここのダウンのフィルパワーは
900。ダウンパワーで言うと約490だ。
以上、フィルパワーとダウンパワーについて、変換ツールから計算方法、様々な素材の
フィルパワーとダウンパワーの変換例と見ていった。それぞれの対応値に関して肌感として
ご理解いただけたのではないかと思う。